建築家のリノベーション

» 2019/08/12/

鳥羽知夫のリノベーション


建築家

鳥羽知夫

店舗[ 徳島市]

早見悟、堂の浦

「早見悟」&「堂の浦」。

難アリ店舗リノベーションの

キーワードは“ガチ”!?


コンクリートの力強さと木質感の温かみが上手く融合された店内。

コンクリートの力強さと木質感の温かみが上手く融合された店内。



『わじ庵』から始まった、お互いを切磋琢磨させる

不思議な縁

 「自分の持っているイメージを簡単に形に出来たり、ちょっとしたインテリアデザインでいいなら設計に至るまでもなく、簡単な工事でお店は出来ます。でも、早見さんは違う。単に自分で出来ないから頼むのでなく、(建築家の)使い方をよく解ってる方だと思います。自分だけの考えで完結させるのではなく、あえて問題提起してみることで、より良いものを目指す。早見さんのその考え方は、僕にとってもすごく刺激的です」(鳥羽さん)。

 『早見悟』『堂の浦』のオーナーである早見さんは、秋田町で知る人ぞ知る穴場的な名店と言われた『わじ庵』のオーナー。鳥羽さんと知り合って『早見悟』の設計を依頼することに。その2年後に『堂の浦』の設計を連続して任せることになりました。では、それぞれのリノベーションについて、深く掘り下げていきましょう。

 

建築家を苦悩させた、

麻雀荘からのリノベーション『早見悟』

 まずは『早見悟』。お分かりかと思いますが、オーナーの名前がそのまま店名になっています。それもそのはず、店自体がマンションの一室のようであり、チャイムを押して入店するという、まるで「家」のようなお店だから。もともとは麻雀荘だったテナントを飲食店としてリノベーションした形ですが、開店までにはかなりの紆余曲折があったそう。

 まず、天井高が低いところで2.2mと非常に低く、設備のためのスペースを確保出来ないという大きな問題があり、上の階からの設備配管も仕上げて塞ぐことが出来ず、飲食店として致命的な不衛生な感じを消すことが出来そうに思えなかったそうです。

 「鳥羽さんから『設備がどないもならん。場所変えませんか?』と言われて。僕も売り言葉に買い言葉で『ほな、もういいですわ!』って、ケンカではないんですけど、ヘンな感じになったこともありましたね。でも、その後、すぐに電話がかかってきて、『どないかがんばってみますか』って。その瞬間、ガッツポーズしたのを覚えています(笑)」(早見さん)。

 

ラーメン店には不向き!?それでも、その細長さを

逆に利用した『堂の浦』

 続いて『堂の浦』ですが、こちらも“難アリ”なテナント。2階が住居として使われており、水回りが集中している奥の方に向かうにつれて老朽化が激しくなっていたため、まずは既存家屋の補強と改修から。また、一間半という狭い間口から細長く続く店内をどのように使うかという点も問題に。以前はうどん店でしたが、居抜きという形ではなく、厨房をはじめ全て一からリノベーションして、現在の形が出来上がっています。

 「基本的に僕は、お客さんの顔を見ながら仕事をしたいので、店舗の細長さを逆に利用して対面カウンターとして活かすのは、最初から頭の中にありました。立ち食いそば屋みたいな感じですね。それを形にしてなおかつ、ピカピカではなく程よいくたびれ加減で、でも清潔感のある雰囲気に仕上げてくださったのは、鳥羽さんならではの仕事だと思います」(早見さん)。

 

“ガチでやり合う”。それこそが施主と建築家の

理想の関係

 こうして店舗リノベーションの経緯を聞いていると、お二人はさながら戦友のような感じ。お互いの思いをぶつけあい、譲れないところは主張する。同時に、相手の主張も尊重する。ある意味、タイマン勝負のような関係性が、大きな相乗効果を生んだ結果が『早見悟』と『堂の浦』ということになるでしょう。

 「やり合ったら、しんどいけど面白い。両方が譲れないところが出てくると、それが混ざって、本人たちが思ってもみなかったものが出来上がったりね」(早見さん)。

 「今回のリノベーションは、他の建築家の方でも技術的には不可能じゃない案件ではあったと思います。でも、僕と早見さんが考えたものが一番、魅力的に仕上がったという自信はあります(笑)」(鳥羽さん)。

 こうした“何でも言い合える”“相乗効果を生み出す”といった関係性は、施主と建築家の理想的なそれと言えるのではないでしょうか。

 


__早見悟__

before

麻雀荘だった以前の内観。「“隠れ家的な雰囲気”という点で、これ以上に面白い物件はないと思ってすぐに契約しました。それまで何軒も鳥羽さんに内見に付き合ってもらったんですが、ここは一人で見て、勝手に決めちゃいました(笑)」(早見さん)。

麻雀荘だった以前の内観。「“隠れ家的な雰囲気”という点で、これ以上に面白い物件はないと思ってすぐに契約しました。それまで何軒も鳥羽さんに内見に付き合ってもらったんですが、ここは一人で見て、勝手に決めちゃいました(笑)」(早見さん)。

天井にむき出しの配管は上階の設備。なおかつ自店の配管も床下に確保しなければならず、「工務店さんとも『他の物件に変えてもらおう』って話してたぐらいです」(鳥羽さん)。

天井にむき出しの配管は上階の設備。なおかつ自店の配管も床下に確保しなければならず、「工務店さんとも『他の物件に変えてもらおう』って話してたぐらいです」(鳥羽さん)。


after

来店したお客さんには必ず手紙でお礼状を書くという早見さん。その真摯な“お客さん思い”は、オープンキッチンにした理由と符号する。

来店したお客さんには必ず手紙でお礼状を書くという早見さん。その真摯な“お客さん思い”は、オープンキッチンにした理由と符号する。

「高級感を演出するには、魅せる箇所にはちゃんとした素材を使う。料理を美味しくいただけるようにテーブルもその一つです」(鳥羽さん)

「高級感を演出するには、魅せる箇所にはちゃんとした素材を使う。料理を美味しくいただけるようにテーブルもその一つです」(鳥羽さん)

天井は目隠しとしてスリットを設置。互い違いにすることで内部はほとんど見えず、かつ低さを感じさせない仕様。素材は安価なベニヤだが、職人さんの技量で見事な仕上がりに!

天井は目隠しとしてスリットを設置。互い違いにすることで内部はほとんど見えず、かつ低さを感じさせない仕様。素材は安価なベニヤだが、職人さんの技量で見事な仕上がりに!



__堂の浦__

before


築年数も正確にはわからない古びた建物。2階は住居で、建物の右手にある入口が住居に上がる階段になっている。

築年数も正確にはわからない古びた建物。2階は住居で、建物の右手にある入口が住居に上がる階段になっている。

建物を正面に見て左手の空き地スペース。内見の段階で、このスペースの使い方についても早見さんはイメージができていたそう。

建物を正面に見て左手の空き地スペース。内見の段階で、このスペースの使い方についても早見さんはイメージができていたそう。

うどん店だった以前は、入店して手前が飲食スペース、奥が厨房という設計。この細長さでカウンターを作ろうと考える、その発想が面白い。

うどん店だった以前は、入店して手前が飲食スペース、奥が厨房という設計。この細長さでカウンターを作ろうと考える、その発想が面白い。

 

 after

レンジフードは亜鉛鉄板、壁面には下地に使うバラ板を使うなど、清潔感の中に力強さを感じさせる内装に。「仕上げすぎると、逆に安っぽくなる感じもして」と、鳥羽さんならではのセンスが発揮されている。

レンジフードは亜鉛鉄板、壁面には下地に使うバラ板を使うなど、清潔感の中に力強さを感じさせる内装に。「仕上げすぎると、逆に安っぽくなる感じもして」と、鳥羽さんならではのセンスが発揮されている。

厨房の背面を窓として開放し、屋台のような楽しみ方もできるように。(現在は仮設的に囲われ、お酒を楽しむスペースに生まれ変わっている。)

厨房の背面を窓として開放し、屋台のような楽しみ方もできるように。(現在は仮設的に囲われ、お酒を楽しむスペースに生まれ変わっている。)

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大きな看板がないため、一見すると何をしている店か分からないのが特徴だが、「あんまり大々的にアピールしたくないんですよね。なんだか恥ずかしいというか(笑)」という早見さんの要望を叶えた形だ。「看板出さないで商売出来るのは、自信あるからですよ!」(鳥羽)

大きな看板がないため、一見すると何をしている店か分からないのが特徴だが、「あんまり大々的にアピールしたくないんですよね。なんだか恥ずかしいというか(笑)」という早見さんの要望を叶えた形だ。「看板出さないで商売出来るのは、自信あるからですよ!」(鳥羽)



早見さんの夢を叶えた建築家

[建築家]

鳥羽知夫

 
鳥羽



設計コンセプト

「この計画はまず場所探しからスタートしました。半年後、オーナーが探し当てたのは古いテナントビル。梁下はわずか2.2mしかなく、かなり老朽化していましたが、唯一、古いものだけが持つ力強さが魅力的に感じました。そこで、隠すように仕上げるのではなく、現況にプラスしていくことで、新旧の対比をそのまま表現することが出来ました(早見悟)。味はもちろん、深夜12時オープンという、独特の営業スタイルでも有名な「 鯛塩ラーメン・堂の浦」。2店舗目出店に選んだ場所は徳島駅前。 間口一間半、奥行19mという特異な条件でしたが、隣接する空地を考えることで、横にも広がりを持たす事ができました(堂の浦)」

 

設計のこだわり、苦労したところ

「とにかく床から天井までが低く、厨房の配管やエアコンの設備関係をどうやって納めるのかが大変でした。それと少し客単価の高いお店ということで清潔感と高級感を出すためにも工夫しました(早見悟)。既存の建物は上の階には住戸のある駅前には今となってはめずらしい古い木造でした。、解体工事は最近のテナントビルと違い、建物に対して優しく慎重に行いました。構造的な不備も発見すると見過ごす訳にいかず、修繕しながらの作業でした(堂の浦)」

 


建築データ

■延床面積

早見悟 73.2m2(約22.1坪)

堂の浦 56.3m2(約17.0坪)

■スケジュール

工事期間 2010年3月~2010年4月末(早見悟)

工事期間 2012年11月~2012年11月末(堂の浦)

■設計監理 鳥羽知夫建築設計事務所

■施工 島出建築事務所

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