■徳島の建築家が考える木造建築
[店舗編 #001]
[カフェ]
店名/ろうそく夜(ろうそくよ)
所在地/徳島県鳴門市大麻町大谷山田59(東林院内)
設計・監理/一級建築士事務所 株式会社moon at.
施工/マツシタ店装
写真/生津勝隆
■ 「ろうそく夜」店主より
年月とともに変化して
愛着や思い出が増していく
木は新しい状態から育てていけて、風合いの変化が楽しいです。気楽に色を塗ったり、ディスプレイ用にクギを打ったりもできます。そういえば、化学物質過敏症のお客様が「ほかのお店では外食できないけれど、ここなら大丈夫」と。木にはいろいろな人を受け入れる、おおらかさがあるのかもしれません。
(店主:元木ともよ さん)
■「ろうそく夜」について
~建築家・伊月善彦より~
おそらく日本で最もミニマムなお寺カフェではないだろうか?(moon at.調べ)
事の起こりは、鳴門市大麻町大谷にある東林院(種蒔大師)というお寺の副住職からの電話だった。
お話を聞くと、東林院境内に休憩場所としての東屋があり、そこをご近所さんや参拝者が気軽に休めるカフェ(雰囲気的には茶屋っぽいが確かにカフェとおっしゃった)にリノベーションしたいということだった。
そして、お店を運営するのは以前から自宅でリビングを開放して「ろうそく夜(ろうそくよ)」という人気の自宅カフェを営んでいたトモちゃんである。
彼女がこれまで培ってきたコンテンツをお寺に持ち込み、新しい形としてお寺カフェを展開するのだ。
トモちゃんというソフトと、ハードとしての苔むした東屋をどういう風に味付けるか? で悩むこととなる。
ろうそく夜が佇むシチュエーションは、お寺という永い時間の中で育まれた「場所」そのものである。
なので「今ある風景をできるだけ変えずに計画しよう」というところからスタートした。
石場建ての基礎と構造体はありのまま生かし、経年の地盤不陸もそのままで…。
窓をつけた窓台も地盤による傾きなりに調整して取り付けるといった、風情とすれば「三匹の子豚」の2番目の子豚の建てた木の枝の家のような感じ?
それでも環境全体が持つ見えない力に守られているように安定し、静かに風景に溶け込む茶屋(カフェ)になったと思う。
■建築データ
・敷地面積/お寺(東林院)境内
・延床面積/23.40平米(約7.1坪)
・規模/木造平屋
・最高の高さ/3.65m
・軒高/3.2m
・地域地区/—
・主体構造/木造
・基礎/石場建て
・屋根/銅板平葺き
・外壁/杉無垢材
・建具/木製サッシ(ヒバ)
・内部仕上げ/コンクリート土間(床)、杉無垢材(壁)、既存小屋組表し(天井)
・設計期間/2015年11月~2015年12月
・工事期間/2016年1月~2016年3月
■建築家 紹介
伊月善彦
Itsuki,Yoshihiko
一級建築士事務所
株式会社moon at.
所在地/徳島県徳島市川内町小松東75-15
tel.088-677-3001
【所属】
日本建築家協会、日本建築学会、徳島県建築士会
【プロフィール】
1985年 大阪デザイナー専門学校 建築デザイン科卒業
1989年 伊月善彦アトリエ設立
2007年 株式会社moon at.に改組
【受賞歴】
・トステム 第20回全国フロント施工例コンテスト金賞
・公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター主催「第26回住まいのリフォームコンクール」優秀賞
・トーヨーキッチン 第10回「キッチンに住む」コンテスト 審査員賞
・NPO法人 家づくりの会主催「家づくり大賞」再生部門賞
・第1回JIA四国建築賞 優秀賞
・日本空間デザイン賞2020入選 Long List(TOMOE本店)
■木造建築への思い
日本人であるならば誰しも「木」に対する愛着をDNAレベルで持っていると思う。
住宅など一般的な規模、予算であれば木構造を選択するのも建築家の職能意識として当たり前にある。
しかし、経済性や様々な要因から選ばれる木構造と「木」に対する想い、必然性から創られる木造建築はリンクしながらも似て非なるものだろう。
先日、阿南市の若者が飛び込みで私の事務所を訪ねてくれた。彼は大学で建築の勉強をしたのち実家の建材店を手伝いその後考えるところがあって山師(山林伐採の)として独立をしたばかりだという。
その道に入ってから気づいたり、知らなかったことも数多くあったらしく、これからの自分の人生において少しの希望と多くの絶望?を感じていると言っていた。
山の中で自然と共に働く気持ちよさや先人の財産を社会に活かせる喜び、一方業界で常に課題とされる木の川上から川下への流通の問題や労働に対する賃金対価のバランスが取れていないこと等々…。
「様々の事柄を良い方向に導く方法はないでしょうか?」という悩み相談も含めたくさんの話をした。
彼と話をしている中で私自身考えさせられることが多々あった。
昨今地産地消という考え方はとても重要なこととされている。地元の素材に対する愛着や、運送距離を縮めて二酸化炭素の排出を抑えること、カーボンニュートラルによる地球環境負担の軽減への期待など。
そういったことは当たり前に知識としてわかっていたことだけど、それ以上に地元で働く人たちの人生にも関わることなのだなぁということを強く感じた。
どこかで木は木ではないか、と思うところが無きにしも非ずではあったが、表題の「木造建築への思い」というのは、地産地消をもって阿波っ子の心意気を示すことではないだろうか?と初対面の若者との出会いの中で強く思った今日この頃です。
(建築家 伊月善彦)