■徳島の建築家が考える木造建築
[店舗編 #003]
[料理店(割烹)]
店名/阿波割烹 五十鈴(いすず)
所在地/徳島県徳島市秋田町1-67
設計・監理/有限会社 中川建築デザイン室
施工/株式会社 島出建築事務所
写真/米津 光
■ 「阿波割烹 五十鈴」女将より
木は可変性が高い素材だから
事業展開に柔軟に応えてくれる
照明を落としても、温かみのある雰囲気を保てるのが木の魅力。それに手直しが簡単で融通がきく点も優秀です。お客様のニーズに応じて増築した際も、既存の空間と自然につなげることができました。構造にも内装にも木を多用したので、店舗運営に必要な“変化”に柔軟に対応できたのだと思います。
(女将:仁木 祐佳 さん)
■「阿波割烹 五十鈴」について
~建築家・中川俊博より~
建築地は昔からの徳島の繁華街秋田町の中心地にある。
準防火地域の敷地は鉄筋コンクリート造、鉄骨造の雑居ビルが建ち並ぶ環境だが、施設の用途を考えると、木造で建てることが最適と考え、防火構造の木造平屋建てを提案した。
隣地周りの目に付きにくい外壁は、ガルバリウム鋼板張りとし、ファサードなどの目につきやすい外壁周りは防火構造の塗り壁仕上げとして、雰囲気を確保できるよう計画した。
変形敷地のため、各個室はパーティションで分けて、様々な利用客に対応できるよう間仕切られ、ウナギの寝床風に奥へ奥へと繋がるようなレイアウトとしている。
身の丈に合った小規模の運営でスタートしたが、運営の努力から人気店へと成長。増築が必要となり、2期工事として一部事務所を撤去し、奥に残る駐車場に2階建てを増築した。
増築した各客席は個室として利用するが、大人数の宴会時には、建具を引き込み大広間として、TPOに合わせ使えるように計画している。
増築部との取り合い廊下は、敷地形状の歪みがそのまま廊下に現れ、最初から計画した形にはない増築ならではの面白い雰囲気になっている。
さらに人気が高まって手狭になれば、第3弾の増築も可能だと施主に提案をしている。
■建築データ
・敷地面積/419.05平米(約126.8坪)
・延床面積/250.51平米(約76坪)/1期:145.13平米(約44坪)、2期:105.38平米(約32坪)
・規模/木造一部2階建て
・最高の高さ/7.25m
・軒高/6.3m
・地域地区/商業地域、準防火地域
・主体構造/木造在来工法
・基礎/RCベタ基礎
・屋根/ガルバリウム鋼板瓦棒葺き
・外壁/ショップフロント周り、有機砂壁材荒壁仕上げ(防火構造)
・その他外壁/ガルバリウム鋼板折板張り(防火構造)
・建具/延焼のおそれエリア外、内部、すべて県産杉木製建具
・内部仕上げ/和紙クロス貼り
・設計期間/1期:2015年1月~12月、2期:2017年1月~6月
・工事期間/1期:2015年12月~2016年6月、2期:2017年6月~11月
■建築家 紹介
中川俊博
Nakagawa,Toshihiro
有限会社 中川建築デザイン室
所在地/徳島県徳島市国府町敷地311
tel.088-637-2311
【所属】
日本建築家協会、日本建築学会
【プロフィール・実績】
1977年 九州産業大学 芸術学部卒業
1987年 地元デザイン事務所から独立
1989年 プチリゾートホテル・モアナコースト(徳島/鳴門)
1991年 コートヴィレッジ桜ヶ丘(東京/多摩)
1993年 有限会社 中川建築デザイン室設立
1995~97年 しんまちボードウオーク(徳島)
1997年 こうべ甲南武庫の郷(神戸)
1998年 旧Tio高原ビル/現kokusaiビル(徳島)
1999年 しんまちアトリウムアーケード(徳島)
2001年 カフェ&レストラン カサブランカ(徳島)
2002年 ハウスウェディング ノビアノビオ(徳島)
2003年 複合商業施設 88ステージ(丸亀)
2004年 複合商業施設 West-West(大歩危)
2005年 那覇市西町再開発事業(沖縄)
2008年 徳島LEDアートフェスティバル提案、検討委員1
2009年 徳島県青少年センター 改修PFI事業(とくぎんトモニプラザ)
2010年 アグリカフェコモド(徳島)
2012年 七福タオル配送センター(今治)
2013年 阿波地美獲 あおき(勝浦町)
2017年 阿波割烹 五十鈴(秋田町)
2017年 れんまるカフェ(鳴門)
2019年 ルノー徳島ショールーム(石井)
【受賞歴】
・第8回 ジャパンショップ・記念コンペティション・ホテル部門入賞
プチリゾートホテル モアナコースト
・第6回 建設省緑のデザイン賞 建設大臣賞
しんまちボードウオーク両国橋公園
・日本商環境設計家協会JCDデザイン賞97 複合施設部門 入選
こうべ甲南武庫の郷
・第7回 徳島市まちづくりデザイン賞 最優秀
・第13回 国土交通省 手づくり郷土賞 入選
・2003 国交省都市整備局 都市景観大賞
しんまちボードウオーク整備事業
・第8回 徳島市まちづくりデザイン賞 最優秀賞
Tio高原ビル
・2005 東京国際家具見本市アワード グランプリ受賞
組立式家具ZIGZAG他
・2013 徳島市まちづくりデザイン賞 緑とともに賞
徳島青少年センター改修事業(とくぎんともにプラザ)
・2017 LIXILフロントコンテスト2017 小規模施設部門受賞
れんまるカフェ
■木造建築への思い
木造建築は徳島の気候風土にも調和し、快適性もS造、RC造よりも住み心地は優しい。また、用途に合わせた増改築も容易であり、対応性の高い建物として利便性は高い。
しかし、小規模な建物ではなく、中大規模の建物を木造でとなると、伝統工法や在来工法の枠を超え、集成材やCLT、LVLなどを使った新木造と呼ぶ部材や、工法が主流だ。
徳島にはそのような工場はなく、いざ使うとなれば県外のメーカーや材料に頼らざるを得ない。県産材にこだわって使おうとすれば、どうしても重ね梁、合わせ柱といった特殊な工法や、効率の低い利用になってしまう。
特殊な工法では県産材の利用できる機会は限られ、どうしても小規模施設中心の利用になるだろう。
また、徳島のような地方でもグローバル経済の中にあり、目の前の県産材よりも、はるか遠くからコンテナに乗ってくる外材が、安くきれいで使い易かったりする現状がある。
最新のCLTやLVLの工場とまで行かずとも、既に一般部材として多く利用されている集成材の工場が県内に共同ででも1つあれば、単純な経済効率優先の価値観に対して、地元の施設を地元の材料で建てる地産地消として、環境問題やCO2対策、地域経済の循環など、県産材の有効利用を介して可能性は大きく広がるのでは、と思う。
(建築家 中川俊博)