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建築家による木造建築

WOODEN_ARCHITECTURE_01
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オゥ・ポワヴル

■徳島の建築家が考える木造建築
[店舗編 #005]

[洋菓子製造・販売]
店名/オゥ・ポワヴル
所在地徳島県板野郡北島町江尻字旭光3
設計・監理/新居建築研究所
施工/アズマ建設
写真/北田英治


■ 「オゥ・ポワヴル」オーナーシェフより
「オゥ・ポワヴル」オーナーシェフ:森さん
店は街の一部
良い景観づくりに貢献したい

山育ちだから、そもそも木がないと安心できないんです。それに“木が適切に使われることが山の保全につながる”という、環境に対する考え方や価値観を共有できる設計者と出会えたことも大きかった。建築もお菓子づくりも“文化”だと思うから、良い環境・景観づくりに貢献していきたいです。
(オーナーシェフ:森 保介 さん)


■「オゥ・ポワヴル」について
~建築家・新居照和&ヴァサンティより~

◆木陰の下に広がる地域の店舗空間
高度成長期に徳島の工業地帯となり、現在では数少ない人口が増える町の新興住宅街に計画した洋菓子製造販売店である。

街路沿いはフランチャイズ化した看板チェーン店舗が並ぶ。こうした状況に対し、地域素材の魅力や町に貢献できる緑の環境空間を育むことを意識する。

建築主は、緑の中で作り手と客の目線が通い合い、自然、人、お菓子が交わる場を望まれた。

地域特産の新鮮素材を使ったお菓子がどのようにつくられるのか、香りを楽しみながら、子供からお年寄りまでコミュニケーションが生まれる店舗空間を目指す。

地場杉材の平角柱が連続する架構で、ブティック(販売)部門、アトリエ(製造工房)部門とそのサービス空間、緊張をほぐす従業員空間をつくる。

木造軸組みを保護し、木材の調湿効果などを発揮させるために屋根、壁、床下の通気性をもたせる。

高い二つのヴォリューム棟に1.6mの軒を廻す。軒先空間の2階南・西面には従業員のためのテラスを設け、東・北面は広場を囲む。従業員空間の廊下軸に、パティシエの作品が展示できるギャラリーを設ける。

木造フレームで囲んだ正方形の広場の中心に、大空へと伸びる樹高9mのシマトネリコの樹を四本植える。地元吉野川水系の砂利を敷き詰めた広場に落ちる木漏れ日は、夏はすがすがしい風を生み、春と秋は木々の間から陽光が差し込む。

街路樹のヤマモモと敷地の樹木が引き立てあうような植栽配置をし、緑の歩道空間が広がるようにする。

樹木の成長に伴って冬は風をさえぎり、少ない町の緑に潤いを与える。植物は四季を通じて表情が変わる。建築の環境形成の中心性を、建物でなく樹木に据える。


■建築データ

敷地面積/1946.12平米(約588.8坪)
延床面積/463.91平米(約140.3坪)
・規模/地上2階
最高の高さ/7.54m
軒高/6.97m
地域地区/第一種住居地域、第一種中高層住居専用地域
主体構造/木造軸組工法
基礎/鉄筋コンクリート造
屋根/カラーガルバリウム鋼板立平葺き
外壁/モエンサイディング、スタッコ吹付仕上げ
建具/木製建具、アルミ製サッシ
内部仕上げ/[床]ナラ床材、長尺塩ビシート [壁・天井]木造現し、ビニルクロス
設計期間/2006年10月~2009年11月
工事期間/2009年11月~2010年6月


■建築家 紹介
建築家:新居照和&ヴァサンティさん
新居照和&ヴァサンティ
Nii Terukazu & Vasanti

新居建築研究所

所在地/徳島県徳島市国府町中246-4
tel.088-642-7257

【所属】
日本建築家協会、日本建築学会、日本建築士会、日本建築協会、
アジア建築家評議会グリーン・サステナブル建築委員会

【新居照和/プロフィール】
1979年 関西大学大学院建築学修了
1979年 インド留学、B.V.ドーシ研究所
1986年 CEPT大学院美術科修了
1987年 末吉栄三計画研究室
1991年 新居建築研究所設立

【ヴァサンティ メノン 新居/プロフィール】
1980年 ムンバイ大学建築学卒業
1980年 B.V.ドーシ建築事務所
1985年 CEPT大学院都市・地域計画学修了
1987年 末吉栄三計画研究室
1991年 新居建築研究所設立

【受賞歴】
2012年 日本建築学会作品選集
2012年 日本建築家協会環境建築賞
2013年 徳島県木造住宅推進協議会長賞
2016年 ARCASIAアジア建築家評議会建築賞 住宅部門
2014年、2016年、2018年 JIA四国建築賞

■木造建築への思い

◆地域木材で魅力的な空間を
建築主には著名なお菓子づくり工房にいた修業時代からの想いがあった。

大都市の地階に工房があったため、早朝から夜まで太陽を見ない日々であった。太陽、緑や風、四季の移ろいを感じることが、いかに働く環境に大切か自覚されていた。

緑を感じる空間の中でお菓子を作り、お客さんとお菓子を介して、感受性が働くコミュニケーションをする。土地のこだわった農産物でお菓子を作る。

どこから見てもいい衛生環境にすることはもちろん、従業員のストレスを軽減すると同時に研鑽し合える場にする。

こうしたオーナーシェフの想いに建築空間で応えようとした。

訪れる誰もが大樹の心地よい木漏れ日を味わえる空間をイメージした。地域の木材と緑を活かした空間を介して、人と自然の豊かな関係を表現し、五感が働く場所にする。

大きな木材で架構を組み、自然の恵みを感じる空間を目指した。建築主と設計者、続いて施工者が参加し、設備機械業者や庭師の応援を得、力を合わせて、様々な現実を乗り越え、実現させていただいた。

徳島の風土で育った木材や石材などの建築素材を可能な限り使い、徳島でつくることを意識する。

地域の自然、社会の循環が大切だと考えると同時に、地域の風景につなげる。

現状況では地域のポテンシャルを見いだし、風景をつくる設計が大切だと考えた。

木材の素材が持つ力強さを生かす建築空間は、樹木の第二の生命を生かすと言える。

木の繊維特質と暖かさ、木の成分が作る香りや癒し効果、調湿性、経年変化の美が伴う。人に愛され、長寿であることが気候変動抑制の二酸化炭素固定化につながる。

大きな梁間に対して、10mを超える梁にはダブルガーダーの集成材を使ったが、地場の製材品や無垢板を徹底的に使う。

広場の領域をつくる10mを超える外部の梁は、金物を使わない伝統の継手で繋いだ。

長寿にするために湿気をこもらさない様々な対策を行う。木造はおおらかな空気環境を作るのだが、製造部門は部門別に一年中一定の4種類の厳しい温度・湿度コントロールが要求され、工夫と挑戦が求められた。
(建築家 新居 照和&ヴァサンティ)

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