[Y邸]
●設計:中川俊博
●施工:島出建築事務所

思い出の場所を若いご夫婦の住まいに
そこは建て主のYさんご夫妻にとって大切な場所だった。奥さんの祖母が数年前まで暮らしていた古民家。その思い出の場所を新居にすることを選んだのだ。とはいえ、築100年を超える建物を、若いご夫婦が暮らせるように――性能的にもデザイン的にも大掛かりなリノベーションを施す必要があった。
切り立った高台にあるY邸。建築家・中川俊博さんが初めて現地を訪れたときに、北側の窓をあけて奥さんが言った「ここの風が一番気持ちいいんです」という言葉が、この土地の特性をよく表していて、そのままリノベーションのコンセプトとなった。
大胆なリノベーションの手法
生まれ変わった建物の全体を見ると、建物の前半分を間仕切りのない大きなLDKにして、北から南へ気持ちよく風が通るように工夫。「屋根断熱と南北の大きな開口のおかげで、夏も自然の風を感じながら快適に過ごせます」と中川さん。建物の奥半分の南側、オモテの間だったところは和室として残し、北側に寝室などを配置した。
工事は耐震改修も兼ねて内部をフルスケルトンにする大掛かりなものだったが、状態のよかったオモテの間は天井や長押、釘隠しなどをそのまま残した。そこにモダンな意匠をあわせた現代和室や、見上げれば重厚な梁が現しになったLDKの床を洋風のウォールナット材で仕上げるなど、新・旧と和・洋を取り混ぜたデザインの活達さは中川さんならでは。北側の大開口の外にテラスを設けて、家族で朝食を食べたり、友達と焼肉をしたり……内外の繋がりが楽しめる仕掛けも中川さんらしい。
住み継ぐということ
今回のリノベーションに中川さんがつけたプロジェクト名は「15代目からの継承」。旧家の歴史をふまえつつ新しい世帯の暮らしを構築する。リノベーションをきっかけに家族の思いが受け継がれていく。
HOUSE photoコレクション









Before
壁や床を取り除いて、いったん躯体だけに。スケルトンにすると建物の来歴がよく分かる。


Yさんの夢を叶えた建築家
中川俊博(なかがわとしひろ)
[中川建築デザイン室]

・1956年生まれ、血液型A型、山羊座。
・九州産業大学芸術学部デザイン科卒。
・しこくデザインを経て独立。
・一級建築士。
住宅、商業施設、公共施設の設計から東新町アーケードやしんまちボードウォークなど街づくりにかかわる仕事も多い。